杉の木が吐息を吐けり春うらら関東平野はくしゃみに震え

          沖ななも『三つ栗』(2007年)

 

スギ花粉が本格的に飛び始めた。といっても、私は鈍い体質らしく、まだ花粉アレルギーを発症していない。子どものころから春が苦手だという花粉症歴をもつ、つれあいのくしゃみの連発に春の訪れを感じるだけである。

花粉症という言葉はもう季語になり、歌にも多く詠われるようになった。しかし、杉を主体に詠った作品は稀有である。そこに、作者のユニークな視点、また植物への心寄せがあって惹かれる。

「杉の木」の「吐息」は、自分の飛ばす花粉がなぜか人間たちを苦しめていることに対する嘆息だろう。一首の構成としては、まず杉にため息をつかせ、それがうららかな春であることを示した後、下の句でユーモラスに大勢の人たちがくしゃみしている様子を描いてみせる。誠にすみずみまで計算されており、練達のかろみといったものを感じる。

いくら大勢の人が一斉にくしゃみをしたとて、地面が震えるほどのことはないはずだが、それくらい花粉アレルギーの人が多いのだと、この作者は見ている。結句は社会批評としても読める。