松村 由利子


入学式のひかりに満ちた校庭の誰も時空を逃れられない

          笹公人『念力家族』(2003年)

 

普通に読めば、「誰も時空を逃れられない」という、ごく当たり前のことが詠われているのだが、歌集『念力家族』の中で読むと、全く違った様相を見せる一首であるのが愉快だ。

家族みんなが何かしらの特殊な能力「念力」を備えている、というのが、まず可笑しい。映画やコミックの世界には、家族がみなお化けである「アダムス・ファミリー」や藤子不二雄Aの「怪物くん」など多くの奇妙な家族が登場するのだが、一冊の歌集でそういう物語を展開するということは、この作者ならではの試みだ。

今春、この一首が収められた歌集『念力家族』を原案として、同名のドラマがNHKでスタートした。短歌界にとっても大きな朗報ではないだろうか。毎回、一首の歌をモチーフに物語が構成され、家族一人一人にスポットが当てられる構成という。この「サイキックハートフルホームコメディー」の原案が、一冊の歌集だなんて素敵だ。エンターテインメントとしての短歌、という新たな地平を目指した作者を思えば、「誰も時空を逃れられない」と思い込み、短歌の可能性を自ら閉じてはいないだろうか、とも思わされるのである。