松村 由利子


日露戦争の祝勝として植ゑられしソメヰヨシノの花のさわがし

          田中あさひ『まひまひつぶり』(2013年)

 

「桜と言えばソメイヨシノ」というイメージが強いが、サクラにもいろいろな品種がある。ソメイヨシノは江戸時代の終わりごろに作られたものだから、万葉集や古今和歌集に詠われている桜は、山桜の仲間なのだ。

だから、武士道と桜の潔い散り方が結びつけられたのは近代以降のことである。この作者は、ソメイヨシノが日清戦争、日露戦争の戦勝記念に植えられた史実を思い、心穏やかではない。「さわがし」は、満開の花の見事さでもあるだろうが、むしろその見事さを苦々しく思う作者の落ち着かない気持ちを表している。

次々に植樹されたソメイヨシノは人々に愛され、やがて戦死は「散華」と美化されるようになる。軍歌「同期の桜」の歌詞、「咲いた花なら散るのは覚悟 みごとに散りましょう国のため」は、まさにソメイヨシノの一斉に散る咲きぶりと重ねられている。

この歌は、途中まで事実を淡々と記しているが、結句の「さわがし」という一語でぐっと読む者の心をつかむ。これが「~花を悲しむ」とか「~花の切なさ」であったら、把握が甘くなる。「さわがし」は、作者の心情のみならず、今日の日本の状況をも指すのではないか。