松村 由利子


ジャンヌ・モローのややよぢれたる唇のやうな小説読みをり深夜

          花鳥佰『しづかに逆立ちをする』(2013年)

 

ヌーヴェルバーグなんて、今の若者は観ないのだろうか。もしそうなら、何て勿体ない。モノクロームの映像の美しさも含め、あの輝かしい時代の映画を知らないのは、人生の大きな損失である。

ジャンヌ・モローは、ルイ・マル、トリュフォーらに愛された女優であり、数々の優れた作品の中でも絶大な存在感を誇った。1928年生まれの彼女は80歳を過ぎてからも映画に出演している。そのこと自体は本当に素晴らしいと思うが、若い頃の美貌には圧倒される。

この歌の「ジャンヌ・モロー」は最盛期の彼女と読んだ。「ややよぢれたる唇」は、意志の強さであり、妖艶さでもある。くわえ煙草が、最高に似合った。そんな彼女の唇のような小説という。「突然炎のごとく」のような三角関係が出てくる恋愛小説だろうか。それとも、「死刑台のエレベーター」のようなサスペンス小説だろうか。

シンコペーションのような下の句の句割れ、句跨りのリズムが、この歌にはとても合っている。結句の「深夜」も効いていて、洒落た一首に仕上がっている。