もう二度と行くことのない秘密基地こころにひとつ抱えて眠る

      舟橋剛二『秘密基地』(2005年)

 

「基地」というと、ついピリピリしてしまうのだが、「秘密」が付いただけで、少年たちのロマン満載の言葉となる。

「秘密基地」の言葉としての賞味期限は、随分と長い。かれこれ半世紀以上は続いているのではないだろうか。近所の子どもたちは今も「オレたちの秘密基地、教えてあげようか」なんて話している。

子どもにとって、「秘密」を持つことは大切だ。バーネットの『秘密の花園』や、カニグズバーグの『クローディアの秘密』には、何かしら秘密=自分だけの世界を持つという経験が、子どもの成長を大きく促すことが描かれている。

作者は「二度と行くことのない」という。行こうとすれば行けるかもしれないのだが、敢えて行かない。ただ大切に「こころに抱える」。そして、人はたいてい、秘密基地のようなものをいくつも抱えているのだが、この作者は「ひとつ」と限定した。その慎ましさがリアルであり、好もしい。

ネヴァーランドに帰りたくても帰らない--そんな少年(だった大人)のきっぱりとした決意が涙ぐましくて、切ない一首である。