松村 由利子


音は消ゆ人も逝きたりめぐりやまぬ季節のなかに残る音楽

         河野美砂子『ゼクエンツ』(2015年)

 

作者はピアニストである。だから最初、「音」は演奏、「人」はピアニスト、「音楽」は楽曲そのもの、あるいは記憶の中のピアニストや演奏だろうか、と思って読んだ。

歌集タイトルの「ゼクエンツ」は音楽用語で、同じ音型が高さを変えて反復される技法を指す。うねりを伴うような心地よい昂揚感の魅力を、歌の作者はあとがきで「グラデーションのように色彩感が変化すること」と説明している。

この一首を繰り返し読んでいると、「めぐりやまぬ季節」に、何か人生のゼクエンツとでも言うべきものを感じる。「年年歳歳花相似たり」というが、ある程度、年齢を重ねると、しかった人が次々にいなくなり、人生のはかなさを思わずにはいられない。けれども、そうして反復されつつ彩りを変える季節の中で、生きることの深みがしみじみと思われるのだ。

だから、「人」は必ずしも音楽家である必要はなく、作者にとって身近な人と読んでかまわないだろう。そして結句の「音楽」も、妙なる楽の音にも似た人生の喜びのようなものではないだろうか。作者はゼクエンツについて、「実はその後に控えている深淵を導く端緒であったことに、あとで気づいたりするのだが。」と書いている。

時間芸術と言われる音楽は、瞬間ごとに消えてゆく。どんなに「ああ、いつまでも聴いていたい」と願ってもかなわない。そこに、人生の素晴らしさが在るのだ。

 

編集部より:河野美砂子歌集『ゼクエンツ』はこちら↓

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