松村 由利子


ミスをして上司にひどく叱られた今夜男に会つたらだめだ  

 片岡絢『ひかりの拍手』(2009年)

 

叱責した「上司」は男性だったのだろうか。「男」は恋人である。

最初に読んだときは、理不尽な叱責を受け、反論の余地もなく一方的に言い負かされた口惜しさを、上司と同性である恋人にぶつけてしまいそうな不安を詠んだ歌かと思った。「男ってどうしてああなの!」などと、全く関係のない恋人に訴えてしまいそうで、「今夜」の約束はキャンセルした方がいいな、と冷静に判断したと考えたのだ。

しかし、もう一度読み、もしかすると「上司にひどく叱られた」ことによって、「もう仕事辞めてしまおうかな」と恋人に甘えてしまいそうな自分を警戒した歌かもしれない、と考え直した。本当は仕事をする自分も好きなのに、今日は一時的な感情で「もう結婚して専業主婦になっちゃおうかな」なんて口走らないとも限らない。そんなことになってはいけないから、用心しなければ、という「だめだ」なのかもしれない。

自分の好みからすれば、第一の解釈の方が好きなのだが、本当は第二の解釈の方が当たっているように思える。何しろ「ミスをして」なのだ。たとえ、上司の叱り方が悪かったとしても、そこは甘んじて受けねばならない。それが働くということである。

どちらにしても、作者は自分の弱さをよく見つめている。そこがいい。結句の「だめだ」という強い言葉が頼もしい。