松村 由利子


〈物言わぬ兵士〉にされし馬ありき誰もだれもが必死に生きて

       中川佐和子『春の野に鏡を置けば』(2013年)

 

「物言わぬ兵士」は軍馬のことである。第二次世界大戦まで馬は、輸送や移動の手段として大いに活用された。軍馬の品種改良の成果確認のために競馬が開催されるという面もあったという。

馬だけではない。訓練を受けた犬も軍用犬として戦地に連れていかれた。さまざまなものが供出させられる中、犬も馬も供出の対象となった。「物言わぬ兵士」という言葉の何と哀切なことだろう。

下の句は、そんな厳しい時代状況をさらに詳しく表現している。人も馬も変わりなく、「必死」だったのだと痛切に思う気持ちであろう。

けれども、「されし」という受け身になっているが、馬を「兵士」にしたのは人間だった。「誰もだれもが」、その責任の一端を負うことも思う。戦時の「必死」だったから許される、ということもあれば、許されないこともある。この一首は、何も論評していない。一人ひとりが改めて考えるべきことなのだ。