さいかち 真


本棚の上に鏡を立てかけてあり合わせから始まる暮らし

土岐友浩 『Bootleg』(2015年)

新しい仕事をこの九月から始める人もいるだろう。初仕事が防災訓練だったなんていう人もいるかもしれない。物事はたいてい、「あり合わせ」の所から始まるので、ぐずぐず言っている暇はない。補給は走りながらするものだ。しかしまあ、掲出歌のように余裕を持ってかまえて、心配性にならない方が結果はいいだろう。

 

台形にととのえられた水田がかぼそく電柱をうつしとる

暮れていく敦賀の海の向こうには大きな牛が寝ているところ

まだ青い葉っぱの落ちている庭をツグミが歩く、ときどきうたう

 

口語の歌は、どうしても微差の演出に注意が行ってしまう。そこをどれだけ自然に、わざとらしくなくできるかに、作品の成否がかかっているとも言える。どこからがマンネリで、どこからが人真似や模倣でしかないのか、なかなか見分けにくい。これは感覚勝負の世界だから、瞬発力がない努力型の人にはすすめられない。若手歌人の世界もなかなか大変だ。

三首引いたなかでは、二首めの結句の「ところ」が、場所の意味(牛が寝ているところがある)なのか、時の意味(牛がちょうど寝ているところだ)なのか、意味がわかりにくい。時には文語助動詞も使っていいのではないかと私などは思う。