松村 由利子


秋空にさらすわが身は何物ぞこれっぽっちの裸おにぎり

       辰巳泰子『いっしょにお茶を』(2012年)

 

秋は空が澄んで高い。どこまでも広がる秋空を見上げたとき、この作者は「わが身は何物ぞ」と自問する。

結句の「裸おにぎり」が素晴らしく魅力的だ。今まで聞いたことのない言葉にどきどきさせられる。秋は運動会の季節でもあり、イメージ的に他の季節よりも「おにぎり」がよく合う。シンプルな塩むすびを連想するが、「裸で生まれてきて、身ひとつで死んでゆく人間なんて、海苔も巻かれぬおにぎりのようなものだ」とでも言いたげな作者である。自らも含め、肥大した自意識に苦しむ現代人を笑い飛ばすような一首ではないか。

作者は二十三歳で出版した第一歌集『紅い花』から既に、完成された文体の持ち主だった。その分厚くて巧緻な詠みぶりや文語表現と、歴史的仮名遣いとは切り離せないもののように思えたが、六冊目となる歌集で現代仮名遣いに改めた。「これっぽっちの」の促音に籠もる力を感じるとき、ますますこの作者への信頼を深める。