松村 由利子


日が差せば石はぱつくりと口ひらき太古の空の色を語れる

時田則雄『みどりの卵』(2015年)

 

作者の住む北海道・帯広の空は、「太古の空」に近い色をしているのではないだろうか。だから、「日が差せば」石も気持ちよくなって、問わず語りに太古の話を始めるのだ。

農業を営んできた作者の歌には常に土の匂いが満ち、さまざまな動植物が詠まれてきた。この歌集でも、その豊かな詠いぶりは変わらないが、不思議に石を詠んだ歌が目立つ。

 

春はうれしい 花はくれなゐ木はみどり石が大きな欠伸してゐる

底無しの青空である石たちが影を伸ばしてゐる午後である

やはらかき朝の光に包まれて黒曜石もとろけさうなり

らんまんの李の花のその下で石が寸分浮いてゐたつけ

死んで石になりたる人のあるといふ俺は水色の石になりたい

 

読んでいて心が広やかになるのは、石の表情が生き生きと伝わってくるからだ。北海道の大地に転がる石は、通勤途上で苛立つ誰かに蹴飛ばされたり、重機にのしかかられて地面にめり込んだりすることもなく、多分よい面構えをしているはずだ。何百年と同じ場所に坐している石だってあるだろう。

これらの石が只者ではないことは、歌集の最後に置かれた一首を読むとわかる。

 

カムイから聞いた話のそのひとつ 石がみどりの卵を産んだ

 

歌集のタイトルは、ここに由来するのである。「カムイ」はアイヌ語で「神」。そんな話をさらりと披露してくれる作者もまた、只者ではない。