この地上にいまだ光の届かざる星の在り処を想ふ秋の夜

志垣澄幸『日向(ひむか)』(2008年)

 

秋はもの思う季節である。恋に胸を焦がしたり、老いゆく親を案じたり、あてどなくさまよう心を持て余す人もいるだろう。しかし、この作者は、そうした人間の思い煩いを遠く離れ、遥か彼方の宇宙空間にある星のことを想像する。それがどれほど遠くかと言えば、「この地上」にまだ光が到達していないほどの距離なのである。つまり、宇宙の果てといってもよいだろう。

電波天文学の発展によって、可視光線や赤外線によらない星の観測も進められているが、そのことは決してこの歌の魅力を減じるものではない。今年5月、地球から131億光年離れたところにある最も遠い銀河が見つかった。宇宙誕生から間もないころにできた銀河であり、地球の歴史よりも古い。広大な宇宙には、まだまだこうした未知の天体が数多くあるのだ。

この作者は、常に地球を離れたまなざしを持っている。歌集には、「われら住むこの惑星を探査する星もあるべしあふるる夜空」という、SF短篇のような楽しい一首も収められている。秋の夜空を見上げ、宇宙の果てまで思いを馳せてみたい。