触れられて哀しむように鳴る音叉 風が明るいこの秋の野に

       永井陽子『葦芽』(1973年)

 

音叉を鳴らす。調律師がピアノを調律するときに、指揮者が伴奏なしで歌う合唱団のために、緊張感をもって鳴らす。繊細な心をもつ歌人は、そこに何かもの悲しい響きを感じとる。

音叉は常に一定の高さの音を出す。作者はそのことを哀れんでいるのだろうか、常に同じ対応を求められる息苦しさを感じてしまう自分を見るようで。触れられれば、そう対応せざるを得ない哀しさ……。

秋の野はこんなに明るいのに、作者の心の中にはかなしみが満ちている。音叉はチューニングのための道具なのに、心が調えられるのでなく却って乱されてしまうという矛盾に、読む者も胸が痛む。秋風に吹かれ、揺れつづける草々の様子が、作者の心の中そのもののように見える。