松村 由利子


モーニングコール十分前から待つ夫とローマ二日目いさかいをせり

       鷲尾三枝子『まっすぐな雨』(2003年)

 

短歌の基本は相聞歌である。そして、せつない片恋や青春まっただ中の危うい恋もよいけれど、長年連れ添う伴侶を詠んだ歌は、本当によいものだと思う。

この歌は、せっかちな夫の性格を「モーニングコール十分前から待つ」と巧みに表現し、楽しかるべき「ローマ二日目」に「いさかいをせり」という残念な状況をユーモアたっぷりに詠っている。そんな余裕をもつ作者をいいな、と思う。

「いさかい」というのは、もし片方が「もう、そんなに早く起きなくても……私はもっと寝ていたかったのに……」と、口には出さず、しんねりと不満を抱いていたら決して起こらない。「あなたって、いつもそうなんだから!」とぽーんと言えるのは、二人が風通しのよい、明るい関係を築いているからだ。

一緒に住むというのがなかなかに難しい事業だということを、たいていの人はそれをスタートさせて初めて知る。性格の違いというものは実に些細なところに現れ、ことあるごとにぶつかってしまう。けれども、穏やかで深い愛情は、そうした日常の小さなぶつかり合いを重ねることで、徐々に形成されるのではないだろうか。

二人のイタリア旅行を鮮やかに切り取った一首は、いつまでも作者の胸を温めるに違いない。