和紙の上跳ねる蘭鋳(らんちゅう)あかあかと鮒ゆ進化の果てを腫らして

大野道夫『秋意』(平成27年、本阿弥書店)

大野道夫は竹柏会「心の花」編集委員であり、東京大学で社会学を専攻した社会学者でもある。現在は大正大学で教鞭をとるが、母校の東京大宇本郷短歌会顧問も務めており、社会学の立場から短歌結社を分析した『短歌の社会学』、『短歌・俳句の社会学』などの著作もある。

大野の第五歌集『秋意』はいたるところに修辞と暗喩が潜んできて、それが読み解けると楽しいが、それだけに、正直言って多少疲れる歌集でもあった。その中で、掲出歌は比較的判りやすい。

金魚は鮒の突然変異の中から橙色の鮒を人為的に選択して交配をは重ねた結果生まれた観賞魚である。その中でも蘭鋳は肉厚で背びれがなく、頭部に肉瘤を発達させている。因みに、その頭部の肉瘤がライオンを思わせることから英語では「ライオンヘッドゴールデンフィッシュ」と言うらしい。それはまさに「進化の果て」としかいいようがない異様な姿である。

「果てを」あるいは「腫らして」というところ辺りが禍々しい印象を与え、社会学者大野の強烈な文明批判が感じられる。人類の進化の果てがかかる異様な生物を生み出したのだ。そして「和紙の上に」というところに、その文明の進化の果ての禍々しさが、まぎれもなくこの日本の上に起こっていることを暗示する。