三井 修


雪の上に雪積む小路を歩み来ぬ裂けし一樹の立つところまで

内藤明『虚空の橋』(短歌研究社、平成27年)

 映像的な一首である。清冽な冬の大気の冷たさが伝わってくるようだ。初句字余りであるが、あまり気にならない。

 一冬の間の何度もの降雪が積み重なっている小路だという。幹線道路や生活道路ではないので、除雪をしないのであろう。雪の上を人がまばらに踏み、その上に新たな雪が積もり、それをまた人が踏んでゆく。そのイメージは人生を連想させる。様々な困難を乗り越え、また新たな困難に直面する。人生とはそんなことの繰り返しかも知れない。しかし、それでも一人一人の人生は新雪のように光り輝いている。作者はそんな積りで作った歌ではないだろうが、そんなことも感じさせる。それが短歌の奥深さでもある。

 そして、行きついたところに幹か枝が裂けた一本の樹があるという。「木」ではなく「樹」の字を使っているところに、何となく小さな幼木ではなく、樹齢を重ねた喬木を思ってしまう。その樹が裂けているのだ。裂けた理由は言われていないが、ひょっとしたらこの冬の雪の重みのためだろうか。幹の中の水分が寒さで凍結し、膨張して幹を裂くことがある。凍裂という。或いは凍列のためだろうか、それもこの冬の凍列だとすれば、裂け目はまだ生々しいだろう。痛々しいと言ってもいいのかも知れない。そう考えるとこの一首が益々人生の暗喩のような気がしてならない。

   ひとこゑに呼び合ふ鴉、ふたこゑに遠吠ゆる犬、人語いまだし

   月読みの光照らせるわたつみに漕ぎ出だしけむ声掛けあひて

   蟬の声今年初めて聞きしとぞ葉書を読めば鳴く声聞こゆ