三井 修


工事現場の荒れたる地表おほひつつ銀を展(の)べゆくさらの春雪

岩田記未子『日日の譜』(平成25年、短歌研究社)

 著者は金沢在住の歌人である。雪国、金沢では十一月末頃から三月頃まで殆ど毎日灰色の雪雲に覆われる。それだけに、春に雲間から明るい日差しが覗き始めた頃の喜びはひとしおである。根雪がまず木の根本から融け始める。黒い木の幹が日光の温かさを集めるのだろう。それから根本の周りに黒い土が見えてきて、その黒い輪が段々と大きくなり、やがて輪と輪が重なり合い、土の上から雪が消えてしまうと、待ちに待った春である。もっとも、現在では金沢市内の主要道路は冬の間も除雪が行き届いているので、そんな春の喜びは少なくなっているのかも知れない。

 この一首、春先に一旦根雪が融けてしまって、冬の間は休んでいた工事も再開された頃であろうか。その後にまた春の雪が降ってくることがある。工事によって掘り起こされた地表が再び新雪で覆われていく。春の雪は淡雪であることが多いので、掘り起こされた地表の凹凸もかすかに残したまま柔らかく積もっているに違いない。積もった新雪は春の光を反射してかすかな影を伴うため、それは美しい銀色に輝く。そのような再びの雪の地表を作者は「銀を展(の)べゆく」という美しい表現をした。また「荒れたる」と「さら(更=新)」の対比も印象的である。

 雪国在住の作者ならではの作品であり、鍛えられた技法をもって美しく表現された一首である。

   ほの白き繭に隠(こも)れるやうにして雪に囲はれ一日が過ぐ

   雪しまく昼かうかうと灯しゐる地下街の店は春の彩り

   春告ぐる雪割草の花に会ひし能登の岬の娑婆捨峠