三井修


みづからの手に織りてゆく未来とぞ思ひしころの鍵が出てくる

宮本永子『青つばき』(2013年、角川書店)

 抽斗の整理などをしていて古い鍵が出てきたのであろう。作者は何の鍵だったかは覚えていないが、たしか結婚前に使っていたことは覚えているのであろう。

 結婚前の青春時代、それは誰にとってもが夢に溢れている時期である。自分の前途には限りない未来が開けており、それをどのように生きていくかは自分次第である。誰もがそう思っていた。作者はここで人生を織物に例えて「織りてゆく未来」と言っているのだ。

 やがて社会に出て、結婚などすると、人生という布はが必ずしも「みづからの手」だけで織っていけないことに気が付く。家族の、職場の、地域の、社会の人達と互いに理解し合い、助け合わなければ生きていけないことを知る。

 思いがけず抽斗から出てきた鍵は、ゆくりなくも青春時代を思い出させる。そしてその頃の自分がいかに傲慢だったかを改めて知るのである。青春は誰にとっても苦く切なく美しく振り返るものなのであろう。

  午前も午後も書いて書きまくる人間はその身そのまま鉛筆となる

  くたびれて倒れ臥したる自転車のあをくさはらの海にただようふ

  〈明るい〉は日と月のこと夕ぐれに翳(かげ)りやすきはわたしの心