人生を悔いたくはなしわたくしも原爆投下せし老人も

大口玲子『神のパズル』

(2016年、すいれん舎)

 100首連作「神のパズル」は2005年刊の歌集『ひたかみ』(雁書館)におさめられたもので、このたびの新刊では講演録や散文、他の歌集からの抄出とともに編みなおされたうちの巻頭作品となっています。

作者の問題意識をおおよそ逆編年体でたどる構成がとられているわけですが、人類の原子力利用をテーマとした「神のパズル」は福島の原発事故以前の作品であり、いまでは事故以後の歌や文章と対比的に読むことができます。

当時、宮城県在住であった作者は近隣の「女川原子力発電所の存在を意識したことをきっかけに」連作を手がけたといいます。日ごろ短歌で問題をとらえ発表する機会あってこその明確な意識化だったかもしれません。

 

大地から宇宙からわれの身体に刺さる自然放射線を意識す

立冬の過ぎて小春日 目閉づれば原子力潜水艦遠くをゆけり

薄き胸の肉を無理やり挟みこみわれは両胸被曝せりけり

 

自然・軍事・医療と異なるレベルでの被曝の可能性が意識されるにつれ、おそれのありかも可視化され、女川原発見学の一連の歌を境に、原爆開発や核実験とその被害、原発事故の歴史がつぎつぎ語られます。

意識化・可視化は、意思もはっきりさせます。掲出歌は意思についての歌にほかなりません。原子力利用の否定も肯定も人間の意思である点で変わりはなく、意思は実行される直前まではいかなる内容であれ善である(あった)という考え方。

それは、人間を愛したいという願いと呼んでもよいでしょう。