三井修


離陸する別れのつよさを繰り返し見てをり秋の空港に来て

梅内美華子『エクウス』(平成23年、角川書店)

 一般的なジェット機の離陸の手順は、先ず、滑走路内で機体を完全に停止させ、50%程度のエンジン出力にして、エンジンが安定したのを確認してから、車輪(ギア)のブレーキを外せばオートスロットルが作動して、エンジン出力が離陸推力にまで上昇する。この間は大きなエンジン音がして、機体がかすかに胴震いする。機体はそれから滑走を始め、ある程度の速度になった時に機首を上げればする。その間の高いエンジン音と機体の振動は、乗っている乗客も、外で見ている人間も強く感じることができる。

 この作品では「見てをり」とあるから、作者は乗客ではなく、見送りや出迎えなどのためにたまたま空港へ来たのであろう。そして、多分大きなジェット機の離陸の様を見た。急送にエンジンの出力音を上げながら、胴震いするような機体の緊張を「別れのつよさ」だと感じたという。確かに乗客はこれからの旅の期待に胸が膨らんでいるであろうが、見送る者にとっては、それは「別れ」なのである。移住のために出国する人の場合も残された家族や友人がいるであろうし、日本を離れて帰国する外国人の場合も、滞在中に知り合った日本人もあるであろう。いずれも「別れ」なのであり、その惜別の感情の強さがあのエンジン音と機体の緊張なのだと感じているのだ。しかも、「繰り返し」とあるから、作者は次から次へと離陸する機体をずっと見続けている。

 この作品を作った時の作者は、自分自身のそれまでの人生におけるいくつかの「別れ」を意識したのかも知れない。そして、それらの自分自身が体験した「別れ」の強さを、眼前のジェット機の離陸の「つよさ」と重ねているようにも思える。「秋」という季節の設定も、「別れのつよさ」を増幅させるのに役立っているようだ。

  父病めばふつうの呼吸の美しさきこえくるなり街に電車に

  寒い雨に熱燗をのむほんたうは腹の底ひに火がほしいのだ

  新品の白妙の下着供へらるあの世で着替へする死者のため