にはとりも備品であれば監査前に何度もなんども数をかぞへる

高橋元子『インパラの群れ』(2016年、現代短歌社)

 第三回現代短歌社賞受賞者の第一歌集である。公立高校の事務職員をされていた由で、歌集の大半がこのような職場の作品で占められている。

 この一首、なんとも面白い。小学校などではウサギなどを飼っているところが多いが、鶏を飼っている高校は珍しいのではないかと思っていたたら、農業高校らしい。実習などに使うのであろう。学校の備品と言えば、黒板、机・椅子、ロッカー、パソコンなどが思い浮かぶ。公立学校の備品であれば、税金で購入されたのであるから、不正が無いように、台帳に記入され、さらにその番号を記入したラベルが現物に貼られる。そして定期的に監査なるものがあり、お役人がやってきて、台帳と現物を照合する。

 鶏は購入して直ぐに消費する消耗品ではなく、ある程度の期間飼育しているのであるから、確かに「備品」なのだ。それにしても番号を記したラベルは鶏のどこに貼るのだろうか。置いてある物ではないから、ラベルは貼りにくいだろうと思う。脚にリングなどで止めてあるのだろうか。それともラベルは貼らないのだろうか。仮に貼らないにしても、「備品」であることに変わりはないから、監査人は台帳と数を照合する。職員としては監査がスムーズにいくように予め準備をしておかなければならない。

 作者も監査を前におそらくはケージの中の「備品」である鶏の数を確認している。養鶏所ではないから、小さな個別のケージに一羽づつ入れてあるのではなく、大きなケージに何羽か一緒に入れてあるのであろう。台帳も、ロッカーやパソコンのように一個一個個別に管理しているのではなく、一括して「ニワトリ何羽」と記入されているのかも知れない。それにしても数の確認は大切である。鶏はケージの中を動き回るから、どれを数えてどれをまだ数えてないか分からなくなってしまう。だから、ラベルが張ってあろうがなかろうが、作者は何度も数え直さなければならないのだ。けたたましく動き回る鶏の間を計数器を片手に一所懸命仕事に励んでいる作者の姿を想像すると、何ともおかしく、そして心から応援したくなってしまう。そしてまた更に想像を膨らませれば、その後に監査する人も苦労して数を確認するのであろう。それも想像すると愉快な光景である。

     異動する人多ければシュレッダーの勤務時間をこえて働く

     校則に決まりはなきに雨の日の色はあふれる女生徒の傘

     生徒らの下校をすれば静かなる昇降口をよぎる蝙蝠(かはほり)