人齢をはるかに超える樹下に来て仰ぐなり噫、とてもかなはぬ

佐藤通雅『連灯』(2017年・短歌研究社)

 

友人が「巨樹を見る会に入っている」と言った。「どういう活動をするの」とわたし。自然保護団体のようなものかと思ったのである。友人は、大きな木を訪ねては、皆で「ほう」とか「はあ」とか言いながら眺めるのだと応えた。そのときわたしは何が面白いのかと思ったが、この頃ではわかる気がする。そういう人は想像力が豊かなのだ。そして、人知を超える遥かなるものへ思いを膨らませることができるのである。

 

掲出の歌を読んだとき、友人のことを思い出した。大きな自然の前で圧倒されているのだが、「噫、とてもかなはぬ」と感嘆するには、相応の人間力がいるだろう。俺が、わたしが、という人間中心的料簡に固まっていては、圧倒されることはない。この歌は、【樹齢千年の大樹は千年を見てきたり一歩も此処を動かざるまま】に続く。また、歌集には【構内のヒマラヤ杉は棟超えて人類以後を生きるかたちせり】という歌もある。一冊の中で「人類以後」は大切な主題となっている。

 

水はいい ますぐに落ちて光となり影すら生んで遠くへ流る

改札口にペタッとカードを押し付けるペタッの時代がどんどん進む

「おらだづはどんどんわすれられてゆく」このひとことをマイクは拾ふ

 

前歌集『昔話』では現地の東日本大震災がリアルに歌われた。『連灯』では、体験を受け止めつつ、年齢の深まりとともに思想を深めてゆく。「大樹」に象徴される、自然と文明に対する考察は、地球に暮らすわたしたちの大きな主題だ。