岡崎裕美子『発芽』(ながらみ書房:2005年)
(☜6月19(月)「生きると死ぬ (7)」より続く)
◆ 生きると死ぬ (8)
思わずたじろいでしまいそうな、告白の歌だ。その勢いに流されてしまいそうになるが、話されている内容はなんとも複雑である。
生まれ変わる、という仮定に重ねられる事柄に疑問をもってもしかたがない気もするが、「君」になれたとしても、「君が好き」という気持ちは維持できるものなのだろうか。できたとして、それは「君が好き」なのではなく「私が好き」になるのではないだろうか。
そもそも、元の「君」の中身はどこにいってしまうのか――
これらの疑問を吹き飛ばすかのうような魔法の言葉が、一首の出だしである「はい、」という言葉なのだろう。このカラッとした一語が、告白を重たいものにせず、一首を快活で風通しのよいものにしている。
柴田瞳の歌に、次の一首があった。
また生まれ変わっても君とわかるよう何か目印つけておいてね 柴田瞳『月は燃え出しそうなオレンジ』
岡崎の掲出歌とは相手との関係性や状況は異なるのかもしれない。しかし、この歌にも生まれ変わること、が語られている。
誰かを好きになる気持ちが強くて永遠であるほどに、その永遠が死によって断ち切られることは確実性を帯びる。その事実を打ち消すための方法が、生まれ変わることを信じることであり、また「君になりたい」や「目印つけておいてね」という無茶な要望をぶつけることであるのだろう。
(☞次回、6月23(金)「生きると死ぬ (9)」へと続く)