小高賢『怪鳥の尾』(1996年)
母と娘が、なんの気づかいもなく、あれやこれやとおしゃべりをしながら買物をするのは楽しいことだろう。まして季節は春。
だが、意見の相違でも発生したものか、せっかく連れだって出かけたふたりは何やら険悪な雰囲気で戻ってくる。
興味深いのは、この歌が「娘と妻」と、娘を先にしてはじまっていることだ。娘の方が、声やふるまいが目立ったのかもしれないが、やはり、主な関心の対象は娘なのだろう。
さて、このふたりを前に父はどう思ったか。
「洋服購いて春の街より」という、いたって自然な描写の下句が、そのあたりの機微をよく伝える。
父はすこしうらやましく、そしてうらさびしい。
自分がけっして入り込めない、母娘の関係。それはそれでよしと思いつつ、しかし、彼女たちのひく春の街の、そして、ともに洋服を買うというその華やぎが、父をふとひとりにさせる。