松影を浴みつゝゆくは哀しかり跳びかがよへる斑猫みちをしへかも

三島由紀夫(S16.9.8)『三島由紀夫 十代書簡集』(新潮社、1999年)

 

三島由紀夫は型通りの辞世よりも、学習院時代に文芸部の歌会のため作ったこんな歌のほうがよいと思う。浴みつつ、という古風な言い回しとその「み」、安部公房『砂の女』の主人公も集めていた色鮮やかな昆虫、ハンミョウをさす名「みちをしへ」の「み」、をはじめ、ま行、や行の際立つやわらかな調べのなか、ちょうど歌の腰にあたる三句目に「哀しかり」と午後の日差しに照らされたような硬質なかなしみが不意にきざすのが手際よく、なんともいえずよろしい。

この歌を含む三島由紀夫の十代書簡集は、まだ自分も歌をつくりはじめて日の浅い高校時代に何度となく読んでいたのだが、改めて見てみると「浴びつつ」でなく「浴みつつ」や「かがやける」でなく「かがよへる」といった古風なやわらかい語の選択や、「哀しかり」の連用形言いさしなど、いまでも自分がうたを詠むときにふと使ってしまう手癖はこんなところにも潜んでいたのかと驚かされる。