矢部雅之『友達ニ出会フノハ良イ事』(2003年)
「まだまだ純情が残っているから、韓国ドラマが好き」
数年前、年配の女性がこう話すのを聞いた。
「今の日本の恋愛は進みすぎていて……。韓国のものを見ていると若いころを思い出す」
という。
時代のいろいろな勢いに驚くのはわたしも同じだけれど、でも変わらないものもある。
思慕、恋の入り口にさしかかろうかどうかという、なお淡い思い。そんな思いを表すことばでさえ、今の自分の気持ちにふさわしいかどうかを問う。
なんともつつましく、みずみずしいが、そこにはいったん名づけてしまえば、その枠に入ってしまう気持ちを惜しむ思いもあるのだろう。誰のものでもない、だけど自分にもうまくとらえられない、そしてたぶん、そう長くはつづかない思いが、手のひらで囲うかのように大切に、読む者の前にさしだされている。