岩尾淳子


まゆみの実ひとつ飲みまたひとつ飲みつぐみが連れてくるよゆふやみ

河合育子 『cocoon』Issue 15 2020年

 彼岸を過ぎてあたたかくなったせいか、午前中はよく鳥の鳴き声が聞こえる。四十雀の声が遠くから響いて愛らしい。つぐみはどんな鳴き声なのか、気になって検索してみると、案外おとなしい。このあたりでも聞こえていそうだけど、これでは気づけそうにない。つぐみは、あまり鳴かないから〈つぐみ〉という名がつけられたと言うが、かわいらしい名前だ。

檀の実は晩秋にうす紅いろの花殻をつけて赤い種がこぼれおちそうに実っているのを見たことがある。この歌では、その小さな赤い実をつぐみが啄む様子がかわいらしく描写されていて、思わず立ち止まった。〈ひとつ飲み〉のリフレインに小鳥が懸命に食する仕種がこまやかに写し取られている。〈つ〉の音が連続するのも、小鳥の弾むような動きと合っていて楽しい音感が生まれている。そして、下句ではつぐみが〈ゆふやみ〉を連れてくるという詩的な展開によって、しずかな時間のうつろいを無理なく詠み込んでいる。

ささいなことを、眼を引くような新しい修辞で見せようというような表現への無駄な野心がこの歌にはない。ささやかなものは、ささやかなままに、意味を膨らせず、またはぐらかさずに、柔らかで軽いことばでそっと包むこと。ここにはとても謙虚な言葉への寄り添い方がある。それが分かりやすい清潔感のある抒情をくみ上げているようだ。

わずかな材料と平明な言葉にしぼって、透き通るような命のかがやきとたゆたう時間を閉じ込めている。世界の美しさは細部にあるというけれど、それを言葉で生き生きと表現できるかというとそう容易くはない。鍛錬された言語感覚がよびだした絶品の歌と思う。