吉田 隼人


機関庫の春のさびしさ鳩さへも白き翅はね染むその炭塵に

小野田秀夫(引用は出口裕弘『澁澤龍彦の手紙』朝日新聞社、1997年による)

 結核で早世した、澁澤や出口の旧制浦和高校時代の友人の歌から。白い鳩の羽根が機関庫の炭で染まるイメージは、そのまま自分の呼吸器が病に侵されていく不安に重なるのかも知れない。翅、という字の選択もより「汚された」悲しみをたたえているようだ。春のやわらかい日差しのなかで薄汚れた鳩が飛んでいる、その「さびしさ」。

  口すゝぐ水晩秋(おそあき)の香りして日陰に一つ病める薔薇あり 同上

 水ひとつにも季節を嗅いでしまう鋭敏な感覚に、ウィリアム・ブレイクや佐藤春夫以来の「病める薔薇」もまた自分の姿を写すものとして見えたことだろう。