花くたしいたくな降りそ新墓の猫の柔毛に滲みやとほらむ

安藤孝行(引用は白崎秀雄『当世畸人伝』新潮社、1987年より)

 安藤孝行たかつらは京都大学出身の哲学者で、アリストテレス研究を英文で発表し高い評価を得るなどした一方、いささか偏狭な性格で畸人としても知られた。詩歌の翻訳はそれ自体も詩でなくてはならないとして、唱和という独自の考え方をもとに訳詩や作歌をおこなった。一方で犬や猫を愛し、在外研究の片手間に輸入・繁殖も試みたという。そうした猫への愛情がよくこなれた復古調で詠まれた一首。

訳詩に関する理論や、子規や茂吉を筆頭とする近代短歌への反感など相容れないものも少なくないが、安藤が自らの手になる詩歌をどのように考えていたかがわかる次の一首は、中井英夫が「光の函」と呼んだそれと響き合うようなものを思わせる。

うつし世の想をこめし白金の手筺一つをのこしゆかばや 同上