吉田隼人


死後の世界はないと唱えしホーキング博士は死にて車椅子残る

小島なお『展開図』(柊書房:2020年)

 難病ALSが途中で止まったのでホーキング博士は長いこと車椅子に乗って「生き延びて」いた。自分が子供の頃から乗っていたその人が、ついに車椅子だけを残して逝ってしまった何とも言えない「時差」の感じにまずは感じ入る。

ホーキング博士が研究していたことは自分にはよくわからないし、世間の人の大半にもきっとよくわからないし、作者もこの歌から博士の研究についてなにかを理解することは期待していないだろう。ただホーキング博士はその研究の成果からか、あるいは個人の信念からか、死後の世界を否定して逝ってしまった。死後の世界とは敢えて言えば「わたし」、この場合ではホーキング博士にとっては存在せず、ただ遺された者たちにだけ存在するものなのではないか。車椅子の残ったこの世界は、博士以外にも無数の人びとの「死後」の時間が流れる、死後の世界だと言えなくはなかろうか。