湖うみのほとり青の光につつまれて神はしだいに遠のきたまふ

加藤克巳『宇宙塵』(引用は『現代短歌全集 第十三集』筑摩書房、1980年による)

 幻視の歌だろうか。あるいは、わたしにとって神とはあくまで実在するものなのか。湖のほとりにあって神を見てしまうというのは、状況としては出来すぎているような気もするが、その神は遠ざかっていく神である。神はわたしから遠ざかる。神というのはいつも現前しているものではないのだろう。青の光につつまれて、神は遠ざかっていく。「たまふ」というから、わたしには神に対していくばくかの、あるいは甚大な尊崇の念があるようだ。

青は超越の色である。海の青も、空の青も、青はなにか俗を超越したような印象を人間に与えるものだといえる。青の光はなにが発するだろう。夜光虫などが発するのが青の光になるのかも知れないが、なかなか自然界にはっきりと青い光を発するものはないように思う。そしてまた遠ざかっていくものは神秘性を高める。青い光につつまれて遠のいていく神は、その神性をぞんぶんに発揮している。

神と出会ってしまったわたしはどうすればいいのだろう。何かを告げられたわけではなくとも、神を見てしまったからには、何かが起こらずにはいないはずだ。しかし神は遠のいていく。神は常に近きにあるものではないのか。しかし相手は神であるから、遠のいていくのをどうすることもできない。あるいは神を見てしまうこと自体、どうすることもできない体験なのかも知れない。