吉田隼人


きっぱりと降りる初霜 わたくしの嫌うひとにも苦しみはある

野口あや子『くびすじの欠片』(短歌研究社、2009年)

 むかしwebサイト「短歌行」で目にして、はっとさせられた歌。強い言い切りが、それこそ初霜より「きっぱり」している。

初霜がどの葉にも白く降りるように、苦しみはどの人にも平等に訪れる。いや、そうだろうか。霜が降るのは平等ではないし、苦しみも人によって偏りはあるだろう。しかし「わたくしの嫌うひとにも苦しみはある」。苦しみがゼロの人生はありえない。

嫌っている相手のことを慮ることは難しい。自分よりずっと恵まれた境遇にあるように思うことのほうが多いだろう。うらみつらみ、ねたみそねみ。その人には苦しみなんかないようにさえ思われるかも知れない。けれども、その人にもまた苦しみはゼロではない。初霜が白く美しければ美しいほど葉を苦しめているように、むしろ何の苦しみもないような人にこそ、命を絶つような苦しみが隠されているようなことはないだろうか。