吉田隼人


妖怪はいて怪獣はいなかった 帽子を脱いで沼を見ていた

正岡豊「四白集」2020年

 怪獣を期待していて妖怪しかあらわれなかったら、失望するのだろうか。魚を釣ろうとして、長靴やゴミが釣れてしまったときのように。怪獣と妖怪の境はどこにあるのだろうか。沼からネッシーのような怪獣が出てきてくれれば楽しいかも知れない。けれども妖怪はなにかしら悪さをすることもあるだろう。もちろん、幸福をもたらしてくれるような妖怪だってあるだろう。たとえば座敷わらしのような。

けれどもわたしには特に何もなかったように見える。わたしはただ、帽子を脱いで沼を見ていた。妖怪に何かをされたにしてはのんびりしすぎている。妖怪はもしかしたら、わたしの隣に座って、一緒に沼を見ているのかも知れない。主語がハッキリしないから、ことによると帽子を脱いだのも妖怪の方かも知れない。二人一緒に、もう何も出てこない沼を眺めながら「怪獣、いなかったね」なんて言葉を交わしていたら、かわいらしいのだが。