吉田隼人


ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり

芥川龍之介「薔薇」(引用は『芥川龍之介全集』第1巻、岩波書店、1995年による)

黄蝋はミツバチの蝋のこと。デカルトの省察で知られる「蜜蝋」である。

芥川らしい才気……と言いたいところだが、「ほのぐらき」と「黄昏」は重複表現のような気がしないでもない。基本的には暗い精神状態をあらわしているのだろうが、そこに一縷の希望のように蜜蝋に灯がともる。黄昏と黄蝋の「黄」の字が重なって、たそがれのオレンジがかった暗がりのなかで、より明るいオレンジの灯がともるグラデーションというか、明暗がついているところに作者の色彩感覚がみえておもしろい。

けれども「かすかにともる……もあり」であって、人生行路を照らしてくれるような明るさではない。逆に「ほのぐらき」「黄昏」と重なっていることで、わたしの魂はかすかな明かりに照らされつつも、あくまで暗さの中に沈んでいる。「たましひの黄昏」を抜け出る道はあるのだろうか。黄昏はふたたび朝を迎えられるのだろうか。