より似合う彼女にぬくいジャケットをゆずり晩夏の使命を果たす

(山階基『風にあたる』短歌研究社・2019年)

 むかし、女性からジャケットを譲られて着ていたことがある。今はもう着ることなどできないほど太ってしまったが、確かによく似合うと言われたものだ。

逆にこの歌のわたしは、より似合うと思った彼女にジャケットを譲る。それも「ぬくい」ジャケットだ。語感からも暖かさを感じさせる。季節は晩夏、そろそろぬくいジャケットが必要になってくる頃だ。よりふさわしい相手に、ふさわしいタイミングでものを譲ることができたとき、使命を果たしたようなすがすがしさを感じることだろう。