胸びれのはつか重たき秋の日や橋の上にて逢はな おとうと

水原紫苑『びあんか』(引用は『星の肉体』深夜叢書社、1995年による)

初読は大学1年か2年の頃、早稲田短歌会の勉強会だったと思う。上句の、ごく当然のように描かれるリアルな魚の身体感覚にぞくっとした記憶がある。胸びれなんか持ったことないはずなのに、胸びれがほんのわずかに重たく感じる日のことが本当に自分の身体感覚として感じられる。恐ろしかった。
かつて魚だった時代からの運命を感じさせるように橋の上で弟と巡り会おうとする。魚は橋の上に上がり、ヒトとなる。橋の下では今ももうひとりのわたしが、今も胸びれの重さを感じているのかも知れない。