谷じゃこ『クリーン・ナップ・クラブ』 谷じゃこ 編集・発行 2020年
この日曜日に、大阪文フリがありました。これはそこで巡り合った歌集です。
最近は切符を買うことがほとんどない。たまにカードの入ったケースをうっかり忘れたときくらいか。切符を買うと、こんどはその小さな切符を失くしてしまいそうでどきどきする。そして、降車すればその切符ともお別れ。ほんの短い旅の道連れだけど、なくてはならない切符には凛とした存在感があるように思う。
この歌は、そんな切符への愛がさらりと詠まれていてほっこりする。切符は、こことはちがうどこかへ自分を連れ出してくれる貴重なツール。それはどんなに近場であれ、自分に開かれている未来への可能性をもたらしてくれるもの。ポケットもまた、さまざまな可能性を秘めた場所。今日は切符のはいったポケットから楽しさがあふれだしそうな気分の歌。
歩いているだけですけど?という顔のスズメ、クロワッサンあげへんよ
公園のベンチでパンを齧っていると雀がどこからともなく近づいてく来る。でも雀は鳩と違ってあんまり近づかない。少し遠巻きに歩いていてしらんぷりな感じ。たしかにこの歌のとおり「歩いているだけですけど?」といったようにそっけない。だけど、パンくずを投げると、呆れるほどの素早さで攫ってゆく。この歌では、作者はクロワッサンを齧っている様子。クロワッサンはちょっと雀に投げ与えるには惜しいなあ。でも、おそらくちいさな欠片をあげてしまうのかな。
雀の動きへの関心のこまやかさと、おそらく大好きなクロワッサンへのこだわり、明るいひざしのように揺れる思いをユーモラスにスケッチしている。きらきら時間が輝いている。
人生が真っ暗にならないようにこんなところにもグランドピアノ
今はコロナ禍で、演奏禁止になっているけど、駅ピアノ、街ピアノは神戸にもいくつかある。新神戸駅にもスタンドピアノがあり、せかせかと帰りを急いでいる時に、ショパンの幻想即興曲が美しく聞こえてくると、いきなり涙が出そうになる。奏者がスーツにリュックを背負っていたりして、仕事帰りかと想像したりするのも楽しい。音楽はこころを救うとはこんなときかな。
置かれているのはたいがいスタンドピアノだけど、この歌のようにグランドピアノだったら、その空間がもっと豊かな雰囲気になるかもしれない。
エビフライのサーモンカツのコロッケの生まれ変わりの雲が流れる