吉田 隼人


樹のなかに馬の時間があるような紅葉するとき嘶いななくような

大森静佳『カミーユ』(書肆侃侃房:2018年)

 すべてが「ような」の薄闇の中に溶融していくような、そんな一首である。樹の中には馬としての時間もまた流れている。樹に巡り来る時間に合わせて紅葉が起こるように、樹の中の馬に巡り来る時間はその馬をいななかせる。

しかし紅葉の鮮烈な赤も、馬の鋭いいななきも、すべては「ような」の薄闇の中に消えていってしまう。そこにはただ一本の樹が立っているだけだ。いや、本当は樹すら立っていないのかも知れない。すべてを疑わせるような趣きの一首である。