十亀 弘史 「朝日歌壇」2021年6月13日
久しく囚われの身であった人が見た日本の現在である。
テレビをつければ、バラエティー番組に自衛隊が映っている。笑いの中に取り込まれている自衛隊。作者が「いつの間にこんなに増えた」と感じるほどに、そういう場面は増えているらしい。
ここで作者が感じているほどには違和感を感じないでいるとしたら、私たちは日常の中でどんどんこういうことに慣らされ、鈍くなってしまっているのかもしれない。
この歌は、「朝日歌壇」で高野公彦選に入った歌である。
同じ日の「朝日歌壇」には、同じ作者の別の歌が佐佐木幸綱選に入っている。
自衛隊の現役戦車に昂った笑みを浮かべてアイドルが乗る
こちらも自衛隊の歌であった。前出の一首と同じバラエティー番組の中でのことなのかもしれない。作者には、よほど違和感があったのだろう。
自衛隊の現役戦車とアイドル。この取り合わせは、どこから来ているのだろう。その背後にあるもの、製作意図なんてことにも想像が及ぶ。しきりにぞわぞわする。
カッコイイと思わされたり、一緒になって笑ったりしているうちに、その向かっていく先に待っているのは何か。甘いものでコーティングされた得体の知れない物には気をつけなくてはならない。いかに危ういところに私たちが身を置いているかを考えてみないわけにはいかない。