佐々木通代『夜のあすなろ』(六花書林、2022年)
旅のゆきずりに、ひとつ「あかご」の「泣くこゑ」を聞いた。それはそれは、目の覚めるような、いかにもな「あかご」の声。大きな声で外までひびきわたり、どこからかとおもって覗いてみると、「赤瓦ひくくのせたる家」の中から聞こえてくるようだ。
「若夏」という一連で、前後のうたから「由布島」という島を訪ねているようだ。「赤瓦」というのは土地の瓦だろうか。泣く声ともども印象にのこる。
うたは二句切れ。「めざまし」は、今でいう「めざましい」の古いかたちである。「こゑはめざまし」、だんだんと昇るような、広がるようなうたい口が、二句で切れて、ふたたび低く、「赤瓦」とうたいおこされる。この切り替えに、うたの奥行きがある。
まず聞いて、「あかご」の声が鮮明に耳にのこり、そこからこんどは視線に追いながら、ふたたびその光景にはいってゆく。「ひくくのせたる」のこまやかな描写が、それを支える。「あかご」「赤瓦」のことば(おと)のうえでの連関が、ゆるやかにも一首をつないでいるようだ。
しらべてみると、この島は、八重山諸島のひとつ、西表島のそばに添う小さな島のよう。連作にも、水牛で渡る場面が描かれている。赤瓦はいわゆる「沖縄赤瓦」。沖縄のあの、家のかたちをおもいうかべながら読んだ。