仕事場の/小さい窓から覗かれる/灰色の空が自分の心だ

渡辺順三『貧乏の歌』(1924年)

 

 

大正の頃の働く人の歌。
歌集巻頭に置かれている。

 

小さな窓に限られた曇る空に、「自分の心」をみている。
「小さい窓」という表現に、閉塞感が濃厚に感じられる。

 

・日本の/ブルジヨアの学者が口にする/労働問題こそ悲しかりけれ
・仕事が忙しく/ほんとうにおかしく/ 小便するのも忘れて居りし
・起きては働き/疲れては眠り/ 人にも知られず死んでゆくのか

忙しさを極めるなかでの、疲れ、いらだち、絶望……。

 

一方で現代、格差がひろがり、一時遠のいたかにみえた貧しさについて、ふたたび論議されることが多くなった。

今、こうした歌に自分の状況を重ねて、心を寄せる人も少なくないことだろう。
しかし、やはり根元のところで大きく違うものがある。
この当時は、社会を改革することによって先を開こうとする、ほんのひとすじであろうとも希望を持ち得なくはなかった。
だが今は……。

 

こうした過去の歌を振り返るにつけ、無力感さえ蝕まれつつあるような、現代の困難を思わずにはいられない。

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