島田修三『蓬歳断想録』(2010)
自分の内部から生じる確信や自信ではない、なにものかを背にして物を言いつのるヤカラがいる。彼らに対して作者は言葉もない。
そういうヤカラが今もっとも見えやすいのが、喫煙のモンダイであろう。
作者は愛煙者である。ピースを吸っていると歌集でも繰り返し述べている。つまり、作者は自分の立場を鮮明にしてものを言っている。
それに対して、自分の考えは差し置いて、流れに棹をさして進もうというヤカラがいることに呆れているのである。(怒るほどの気力も出ないのかもしれない。)
ただ、常識人の立場がある。喫煙害の知識はある。
そのあたりの矛盾した気持ちが、「ただにぞ寒き」というちょっと屈折した言い方に表れていて、ニヤリとさせるのだ。
「正しきことがただにぞ寒き」と感じることはときどきある。
かつてそれは、まあまあ、なあなあ、という感じで許され包まれてきたはずだ。そういう昭和時代の牧歌的なあれこれが、時代に余裕がなくなるにつれて、断罪されつつある。
もちろんいいことなのだけれど、もちろん正しいのだけど、それでもやはり、ねえ、という哀しいオジサンの呟きである。
戦争に突き進んだ軍部まで連想をしなくてもいいだろう。オジサンの呟きさえ聞き取れれば。