池田はるみ『南無 晩ごはん』(2010年)
なんだか、のんびり雲が通っていくなあ、そう思って眺めていたら、その当人が、呑気な人と言われてしまった。「ほとほと」までつけて。
言われた本人は、ちょっと心外だったろう。
わたしじゃなく、雲がのんきなのよ、と言いたかったかもしれない。
でもやっぱり、そんな風に雲を見ていられるのは、心がのんびりしているのである。
読者をおもしろがらせて、自然に豊かな気分へ運びながら、この歌、なかなか巧緻にできている。
雲をみている人間と、さらにそれを見ている人間とがいて、視線が二重になっている。だから歌に奥ゆきが出る。
また、上句のノーテンキな感じから、下句の声をかけた側の人の、現実的な感じへの転換によって、〈わたし〉の驚きが際立つのだが、ここでの声調の働きも大きい。
「さうに」と音をのばし、「をれば」で以降へつなげる上句のなだらかさ。下句が始まるや「ほとほと」と細かく音を刻み、「とぞ」でアクセントをつけ、「いはる」とはっきり切る。
コントラストが鮮明だ。
「ほとほと」ということばも、そこに嘆きやら、心底あきれた様子がこもっていて、一首のおもしろさによく貢献している。
ちょっとばかり間が抜けているけれど、こんな風にゆったり生きたいですね。