「ネット銀行レモン支店」にタッチする葉つぱのお金を送る心地に

春日いづみ『塩の行進』(現代短歌社 2018年)

 

 店舗を構えず、インターネット上で金融業務を行うネット銀行、ネット支店。現れてから二十年ぐらいも経過しているだろうか。

 しかし、ここ数年来、とみに、その支店のユニークな名前を知ることが多くなってきた。

 実際、周囲に聞くと、「さくらんぼ支店」、「ペンギン支店」に口座を持っているそうな。

 そこで、調べてみれば、サファイヤ支店、ターコイズ支店などの宝玉関連、ジャズ支店、マンボ支店などの音楽関連、アンドロメダ座支店、やまねこ座支店などの星座関連、フリージア支店、ポインセチア支店などの花関連……などなど、リアル店舗では考えられなかったような名前の支店がたくさん存在している。

 

 楽しい。すてきだ。だが、どこかで、面白がりきれない気持ちもある。それは、「お金」とはもっとシビアなもので、真面目に取り扱わないといけないという固定観念があるからだろうか。

 

 こちらの歌は、「レモン支店」である。さわやかだ。甘酸っぱい。しかし、甘酸っぱすぎるような……。

 主体も、そんな違和を感じている。だから、送るものも本物のお金ではなくて、「葉つぱ」のような気がしてしまうのだ。

 これはもう、民話・童話の世界である。「タヌキの手習い」という民話では、タヌキが優しい和尚さんのために、木の葉をお金に変える。佐渡の化け狸である団三郎狸も葉をお金に変えていた。落語の「狸札」に至っては、狸自身がお金に化けている……。

 本物のお金ではなく。私たちは、すでに、お話の世界を生きていそうだ。

 

 そもそも貨幣自体が記号的なものだが、その抽象度がまたぐんと上がった感じだろうか。お金を扱っている実感がどんどん薄れている。いや、お金ですらない、電子マネー、仮想通貨が急激に日常生活のなかで存在感を増している。いずれ、「円」もデジタルになるのだろう。

 

 パネルを「タッチ」すれば、どこかで、嘘みたいに、「何か」がやりとりされる。「銀行」と言っても、それは、空中にある透明な銀行だ。「レモン」の香りだけが漂って……。

 

 可愛い歌である。すてきな歌である。

 しかし、この現代社会のつかみどころのなさをさらりと切る、風刺の歌でもある。

 

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