食卓にぽつり置かれぬ「父の日」のユンケルローヤル黄帝液は

『本所両国』小高賢

 日本で六月の第三日曜日が「父の日」と言われはじめたのは一九五〇年頃かららしい。しかしその認知度は「母の日」には及ばないようである。父というものの存在感は、やはり母とは性質の異なるというべきか。ここでは父がユンケルローヤル黄帝液をプレゼントされたと歌われている。それも手渡しでなく、「食卓にぽつり」とあるので、おそらく朝起きてみると食卓に置かれていたということなのだろう。ユンケルローヤル黄帝液は、いうまでもなく栄養ドリンク剤だが、この名称のものはもっとも高価な一品とされている。手に取った父の苦笑が、そしてまた贈り手の娘(息子)のテレ隠しの愛情とユーモアが、鮮明に見えてくる。この食卓にぽつりと置かれた栄養ドリンク剤にこそ、現代の父の哀歓と、消費時代の一端が色濃く滲んでいるといっていいのだろう。二〇〇〇年刊。

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