真菰まこももてつくれる馬を彦星の今宵のりようと庭に並べぬ

 『鏡葉』窪田空穂

 七夕馬(たなばたうま)の歌である。ふと目に止めたこの歌は、わたしの幼い頃の記憶を懐かしく蘇らせる。七夕馬とは東北や関東地方の農村の七月七日に行われた習俗で、真菰でつくった馬を台に乗せて子供が曳き、早朝の草を刈りに行くのである。朝露の草野の空気は清しく、七夕というと笹飾りよりこの行事の方がわたしには愛着がある。牛・馬の無事と、豊作や子の成長を祈るこの習俗は、昭和の中頃までつづき、とくにわたしの生地の千葉県では盛んであった。稲作が機械化されてそうした習俗も滅びてしまったが、真菰馬と夏草とが並んで七夕の彦星の光に照らされている情景は、いま思い返しても詩的で美しい。自然というものに対して、今より畏敬も幻想も深かったのである。『鏡葉』は大正十五(一九二六)年刊行。

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