『司会者』篠弘
「伝単」とはビラのことだとこの歌で知った。敗戦の気配がいよいよ濃くなった昭和二十年の夏、日本の空に降伏をうながすビラが米機からばらまかれた。この歌はその記憶を詠んだもので、「少年」とはおそらく篠弘自身である。篠は昭和八年生まれ、当時十一、二歳であるが、その日の記憶は一つの異常な光景として、七十年経った今でも鮮明に生きているのだろう。「風出でてきらきら降りくる」という映像を背景に、「少年」はその空から降ってくる「伝単」を、何かの光のように、憧れのように「ジャンプして」取ったという。戦時下ではありながら、つねに未来を目指す「少年」のいきいきとした心が見えてくる。次には「『ツルーマン』の宣言告ぐる伝単に敗戦迫るを少年は知る」という歌がつづき、少年の体験した敗戦が鮮やかに記録されている。二〇一九年刊行の第十歌集。