『みどりなりけり』築地正子
陰暦の八月十五夜か九月十三夜の月をめでる月見。陽暦の現在は九月と十月の満月の夜に、穂薄や団子を供えて月見をする。この歌では「穂すすきと薄茶」を月に供えているようだ。「献ずる」という言葉から格のあるたたずまいが浮かんでくるが、おそらく作者一人の月の宴であったのだろう。そうして月の光を一身に受けているうちに、月に「あなたはいくつになったのか」と問われた気がしたのだろう。思わず月と問答するように、「女の齢は問はぬものにて」と独り言が出たのだ。老女の気骨とユーモアの籠ったこの言葉は、読み手の心をも明るく開かせる。月との問答では「ふるさとにつなぎとむるは〈へその緒〉かはたたましひか月よ答へよ」という歌も心に残る。東京生まれの作者は、戦後、父母とともに父の生地の熊本に転居した。「ふるさと」とは何かと問う一生でもあったのだろうか。一九九七年刊行。