冬至粥小豆ぽっぽっと膨らんで内なる鬼を追い払う色

『海山に聴く』下村道子

 冬至粥とは文字通り冬至に食べる小豆粥のことで、小豆の赤い色が疫鬼を払うとされている。冬至の日に南瓜を食べたり、柚子湯に入ったりする風習と同じで、本格的な冬の寒さに向かっての健康維持を祈ってのことである。この歌でも小豆粥を炊いているのだろう。粥の中に膨らんでくる小豆の「ぽっぽっと」という言葉が明るくて楽しい。豆にはもともとその言葉の音から「魔を滅する」力のある縁起の良い食物とされてきたが、なかでも小豆はその色や味から、心を弾ませるものであるようだ。「鬼を追い払う」力とともに、おいしい食べ物であったのである。歌の中の「内なる鬼」とは、この作者の内面に潜ませている「鬼」ということだろうか。節分の大豆が外なる鬼を払い、冬至粥の小豆が内なる鬼を払うという見立てのようで面白い。また「山椒のすりこぎの音やさしくて冬に入る日はとろろ汁なり」という歌もあり、一人暮らしの作者のつくる料理は郷愁をさそう懐かしいものが多い。二〇一九年刊行の第五歌集。

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