山田富士郎『アビー・ロードを夢みて』(1990年)
オレンジ、ピンク、紫……、ありとあらゆる色の融け合うようなゆうぐれどきの空。
その空を前にして、「コメディアンの死」が思われている。
色彩に富む空の色は、しかし暮れる前のひとときのものであり、そこには暗さが含まれているともいえる。
一方の「コメディアン」。
愛されたというのだから、生前、人々に多くのしあわせな時間を与えたのである。またステージという場所は、一見とても華やかなところだ。
しかし、人々に笑いを与えるため、愛される芸人であるため、この「コメディアン」たる人の人生の総体は、どのようなものであったろうか。
このように、上句と下句、それぞれの明と暗の混じり具合に思いをいたしながら、配合の妙を味わう。
最後に置かれる「死」の一語が、それらすべてを簡潔にしめくくるのも、酷薄なばかりではない摂理なるものの大きさを思わせるところがある。
・空しばし見つめしのちをふりむくに悲しき眼といはれ驚く
・遠空に雷ひらめけば故知らずほほゑむわれは何を待つらむ
空と奥深いところでつながって在るような歌に魅かれる。